2016年8月27日土曜日

拙論:「科学的有望地の提示に係る要件・基準の検討結果(地層処分技術WGとりまとめ)」(案)に関する疑問

核廃棄物地層処分の「科学的有望地」の要件についての検討結果(パブコメ募集サイト)における資料(PDFファイル)についての拙論です。是非ご一読ください。


I 
まず「地層処分」の前提となる再処理に関して、

そもそも技術的目途がたっておらず、延命策は取っているが資金的にも破綻しかけている。(今後延命策の弊害が予想される。)今ある廃棄物の六ケ所での加工も、搬出も、安全に行えるのか甚だ疑問。
製造できている限られた数のガラス固化体も、保管している間に容器が放射線により脆性劣化し、今ある場所から安全に取り出せない可能性がある。しかも、処分事業そのものにさらに数十年かかるという。
搬出・移送・搬入時に、取り返しのつかない事故が起き、周辺環境が汚染されたり、作業者や周辺住民が大量被ばくすることは本当にないのか?何も検証できていない。

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II 第1章・第2章で説明されている、処分場概念と今後の選定手続き全般に関しては、以下の2点が問題。

1. 以前から疑問が提示されているように、「地域の意向を尊重する」と言いながら、「調査を引き受けた地域」への強引な施設押し付けが事実上行われないか。(以下で述べる、「適性のある地域」の要件の不確定性とも関連して。)

2. 本とりまとめ(案)では、ある条件の下でならば、人工バリア・天然バリアが十分な時間スケールと安全性を持って機能する場合があるのでそうした地域 を選ぶと主張している。しかし、結果としてそのような地域が存在し得るとしても、条件にあてはまる地域を予め選べるのか、その方法と保証に信頼がおけな い。全て実証を伴わないシミュレーションに頼った予測であり、不測の条件で変わり得る。にもかかわらず、敢えて十分な説明をしていない。
 また、処分のための掘削自体が、地下の条件を変えてしまう可能性について、十分な検証がなされていない。

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III 更に肝心の、3章における「科学的有望地」としての適性に関する要件・基準の検討内容においては、以下の点が問題。

1. 今年5月の札幌における地層処分シンポジウムで、「行動する市民科学者の会 北海道」の小野有五氏が指摘されたように、国内の地域だけで、安全性のための地質学的条件の比較を行うとしている。国内の地盤・岩盤の状態が、海外で「処 分場候補となり得る地域」または「処分場候補から除外される地域」と比べてどうなのかを考慮していない。この様な比較には意味が無い。(そもそも「科学的 有望地」など、国内に無いかもしれないことを考慮せず、初めから「有望地はある」「それを国民に提示し、今後調査を実施する」と言う前提で議論している。 そのために、後に続く部分でも、敢えて本質的議論を避け、以下に述べるような無理をしている。)

2. 「地質環境特性及びその長期安定性の確保」のための要件として、WGは結局、「回避すべき範囲」「回避が望ましい範囲」についての基準はある程度設定してみせたが、「好ましい範囲」が満たすべき条件は明確に設定することができなかった。
 NUMOと経産省が地層処分の遂行に関連して再三強調する「将来世代への責任」のためには、処分した放射性物質の安全な長期隔離が保たれることは最も重要なはず。にも拘わらず、それに直結する科学的条件について予め決めて示すことができていない。
 それを、「個別要素間の相互作用も踏まえた総合的な評価」を行わなければ判断できない、などという言葉で覆っているが、つまり事前には見当をつけること ができない事柄の調査に巨額の費用をかけて、最後には不毛と判明する場合があり得るということを現時点で認めたと同じ。
 このことは続く「地下施設・地上施設の建設・操業時の安全性の確保に関する検討」でも同じ。この項目は、現世代と、それに続く数世代で実際に地層処分事 業に従事する作業者、また周辺地域の住民の身の安全のために重要な要件だが、ここでもWGは「回避すべき範囲」「回避が望ましい範囲」の基準のみ示し、 「好ましい範囲」の科学的条件を示せていない。
 
 処分場候補地の要件の中で、唯一「好ましい範囲」の基準を設定し得たのは、「輸送時の安全性」に関するもので、その内容は陸上輸送がなるべく短くなる 様、「港湾からの距離が短いこと(島嶼部を含む沿岸部(地下施設が沿岸海底下に設置される場合を含む))」そのため「沿岸から20km以内」とされてい る。
 この「輸送時の安全性のため港湾に近いこと」という条件は、確かに運搬に関わる作業者の被曝を軽減し、輸送路周辺で被曝する住民等の人数を減らす意味を持つが、科学的条件と言うよりむしろ社会的条件に類するもの。

 上の様な検討の末、本とりまとめ(案)第4章では、「「適性の低い地域」に該当しない地域」を「地層処分が成立しない可能性が高いとは言い切れない」と 言う意味で「適性のある地域」と呼ぶとし、その中でも上の「沿岸から20km以内の地域」を「より適性の高い地域」だとしている。
 「適性がある地域」とは、本来なら「好ましい地域の条件」を多く満たす地域であるべき。その条件設定ができないにもかかわらず、「処分場候補地を決め、 調査を行う」ということだけは決めてしまっているために、「現時点では不適格とは証明されていない」と言う程度の地域を「適性のある地域」とする欺瞞に 至っている。

 今後、本とりまとめ(案)の決定に基き、全国の「沿岸付近」から、今確認されている活断層や火山の近傍を除く地域で、調査を受け入れたところならばどこでも良いから巨費を投じて「調査」と言う名の公共事業を行い、それらの中から適当な自治体を処分地に決定してしまおうという意図が働いているのではないかと解釈でき、甚だ問題である。
 
 尚、上記の通り海外での処分場候補地の条件を検討していないのも、以下に述べる様に地下水の「塩分濃度」を全く問題にしていないのも、「沿岸地域」を 「適性のある有望な地域」と言い張り、調査を実施するための布石とも読み取れる。検討結果全体が、非常に不適切なものと言わざるを得ない。

3. 本とりまとめ(案)3.3節の地下水の化学的特性に関する条件に係る議論において、pHや炭酸化学種濃度等の範囲は示した一方で、「塩分濃度」には全く言及していない。  幌延深地層研究センターの札幌報告会において、敷地周辺の地下水塩分濃度は、海に近いほど高いという傾向が示されているが、塩分を含む水で、地層処分を推進する政府やNUMOの主張通り、ベントナイトが適切に膨潤するのかも疑問である。

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